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共主体が育まれる学習環境の検討 ~フィンランドにおける対話による示唆~[What is a learning environment that creates co-agency? : Implications from dialogue in Finland]

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共主体が育まれる学習環境の検討 ~フィンランドにおける対話による示唆~[What is a learning environment that creates co-agency? : Implications from dialogue in Finland]

Author: Nakamura, Megumi,Oyanagi, Wakio,Yada, Takumi,Yada, Akie,Furukawa, Emi
Publisher: Kio University
Year: 2020
Source: https://jyx.jyu.fi/bitstream/123456789/83747/1/KK.1702.11-20.pdf
This is a sel -a chi ed e sion o an o iginal a icle. This e sion
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CC BY-NC-ND 3.0
h ps://c ea i ecommons.o g/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.en
[Wha is a lea ning en i onmen ha c ea es co-agency? : Implica ions om dialogue
in Finland]
© Kio Uni e si y
Published e sion
Nakamu a, Megumi; Oyanagi, Wakio; Yada, Takumi; Yada, Akie; Fu ukawa, Emi
Nakamu a, M., Oyanagi, W., Yada, T., Yada, A., & Fu ukawa, E. (2020). [Wha is a lea ning
en i onmen ha c ea es co-agency? : Implica ions om dialogue in Finland]. Kio daigaku kiyo,
17(1), 11-20. h ps://doi.o g/10.24482/00000054
2020
―  11  ――  11  ―
要約 本研究の目的は,保育の場で,OECD(経済協力開発機構)が示すco-agencyをモデルとした共主体が育
まれる学習環境についての検討を行うことである.そこで,フィンランドの福祉・健康・教育システムを支
えるネウボラとパイヴァコティ(デイケア)で,ネウボラナース(保健師及び助産師),保育者,保護者,
子どもが対話を通して共主体として機能していることを明らかにした.また,モノやコト,人が発信する情
報を人が受け取ることで,そこに価値を見いだして行動することができる場や状況が学習環境として有用で
あることが示唆された.
Keywo ds:共主体,agency,ネウボラ,学習環境
共主体が育まれる学習環境の検討
~フィンランドにおける対話による示唆~
1.はじめに
1.1. 研究の背景と問題
1.1.1 日本の保育における主体性の捉え方
2018年実施の新しい幼稚園教育要領(以下,新要領
と略す)では,総則において,「幼稚園教育は,学校教
育法に規定する目的及び目標を達成するため,幼児期
の特性を踏まえ,環境を通して行うものであることを
基本とする」と示されている.この「幼稚園教育は,
環境を通して行う」という考え方は1989年の幼稚園教
育要領において明文化された。この改訂以降,子ども
の「主体性」についての議論が盛んになった.加藤1は,
要領の改訂が,日本の保育実践論を,方法論における
「指導から援助への転換」,関係論における「集団から
個々の(一人ひとりの)子どもへの視点の転換」,保育計
画における「課題中心から自由遊び(子どもの選んだ
遊び)中心への転換」をするように要求していると述
べた.また,「幼児が集団の中でダイナミックに活動
する視点が欠落」すると同時に,「そうした子どもの『協
同性』をデザインし,組織する保育者の教育的役割に
対する位置づけが弱い」と指摘している.更に,川田
2は「保育の受け手( ecipien )ではなく参加者
(pa icipan )である子どもたちにとっての協同性の
意味」を問うべきで,「保育者の役割は,よく言われ
るような黒子のようなものではなく,自らも主体とし
ての願いを持ち,それを子どもたちの願いに結び付け
ていくという『姿の見える』保育者であり,この観点
に立てば,主体性概念と協同性概念は対立するもので
はなく,むしろ真に相互依存的である.子どもと同様
に保育者の主体性がないところに協同性は拓かれな
2020年9月30日 投稿   2020年11月17日 受理
中村 恵1)
,小柳 和喜雄2)
,矢田 匠3)
,矢田 明恵3)
,古川 惠美4)
1)畿央大学 教育学部現代教育学科(〒635-0832 奈良県北葛城郡広陵町馬見中4-2-2)
2)関西大学 総合情報学部(〒569-1095 大阪府高槻市霊仙寺町2-1-1)
3)ユヴァスキュラ大学 教育・心理学部(Ruusupuis o, Al a  Aallon ka u 9,40014 Jy äskylä, FINLAND)
4)兵庫県立大学看護学部 専門関連教育 学校保健学系(〒673-8588 兵庫県明石市北王子町13-71)
Wha is a lea ning en i onmen ha c ea es co-agency?
~ Implica ions om dialogue in Finland ~
Megumi NAKAMURA1), Wakio OYANAGI2), Takumi YADA3), Akie YADA3),
Emi FURUKAWA4)
1)Depa men  o  Educa ion, Facul y o  Educa ion, Kio Uni e si y
(4-2-2 Umami-naka, Ko yo-cho, Ki aka su agi-gun, Na a 635-0832, Japan)
2)Facul y o  In o ma ics,Kansai Uni e si y
(2-1-1,Reisenji-cho,Taka suki-ci y,0saka,569-1095,)
3)Facul y o  Educa ion and Psychology, Uni e si y o  Jy äskylä
(Ruusupuis o, Al a Aallon ka u 9, 40014, Jy äskylä, FINLAND)
4)School Heal h, College o  Nu sing A  and Science, Uni e si y o  Hyogo
(13-71, Ki aoji-cho, Akashi, Hyogo 673-8588)
―  12  ―
畿央大学紀要 第17巻 第2号
い.」と述べている.
新要領には,教育課程の編成上の留意事項として,
「(1)幼児の生活は,入園当初の一人一人の遊びや教師
との触れ合いを通して幼稚園生活に親しみ,安定して
いく時期から,他の幼児との関わりの中で幼児の主体
的な活動が深まり,幼児が互いに必要な存在であるこ
とを認識するようになり,やがて幼児同士や学級全体
で目的をもって協同して幼稚園生活を展開し,深めて
いく時期などに至るまでの過程を様々に経ながら広げ
られていくものであることを考慮し,活動がそれぞれ
の時期にふさわしく展開されるようにすること.」と
明記されている.ここには加藤が指摘した「集団の中
でダイナミックに活動する視点」が示されている.更
に新要領には,保育者の役割として「教師は,幼児の
主体的な活動が確保されるよう幼児一人一人の行動の
理解と予想に基づき,計画的に環境を構成しなければ
ならない.この場合において,教師は,幼児と人やも
のとの関わりが重要であることを踏まえ,教材を工夫
し,物的・空間的環境を構成しなければならない.ま
た,幼児一人一人の活動の場面に応じて,様々な役割
を果たし,その活動を豊かにしなければならない.」
と明記された.しかし,ここから保育者を行動主体と
して位置付けることは難しい.あくまでも「幼児の主
体的な活動が確保されるよう」に環境構成を行い,援
助する位置づけで,ここでいう「主体的」とは前述し
たような子どもの個人の能力を指すと考えられる.そ
の場合,保育者はあくまで「黒子」であり,「援助者」
でしかない.しかし,保育者や保護者や地域が共に主
体として学びに参加することは,子どもの主体性を阻
むものではない.むしろ,「幼児の主体的な活動が確
保される」ことに繋がる.その際には,従来とは異な
る枠組みで子どもの主体性や、保育者、保護者などの
子どもを取り巻く環境の主体性を捉えなおすべきであ
ると考えた.そこで,本稿では,OECD(経済開発機
構)が示すco-agencyを,保育における主体性を捉え
るモデルとする.無藤ら3は,「OECDのいうagencyは
端的にいえば,『主体的に社会の変化を起こす力』『主
体的変革力』.co-agencyは,みんなで変革していく,
共同の変革力.その『共同の変革力』を育てるために
みんなが学び合う主体であることを『共主体』という
言葉で進めていこう」と提案している.そこで,本研
究においては,「共主体」という言葉を用いることと
する.
1.1.2学習環境とは
本稿では,保育環境をはじめとする,意図が込めら
れた環境を子どもの学習環境と捉えているが,ここで
いう学習環境の「学習」とは,学校教育制度における
学習のように,制度化されたカリキュラムに基づいた
体系的な学習及び教育を含むフォーマルなものを指し
ていない.家庭または地域社会の文脈で生じる,体系
化されておらず,学習者からみると意図的ではないイ
ンフォーマルな学習としての「日常の活動の結果とし
ての学習」に近いものである.日常生活における学習
は,意図しないものであり断片的に発生する.一方で,
「学習としては明瞭にデザインされていないが,計画
的にデザインされた活動に埋め込まれた学習」がノン
フォーマル学習である4.保育は生活に根差したもの
であると同時に,保育者の意図によって計画的にデザ
インされるものでもあることから,本稿における学習
環境とは,インフォーマルとノンフォーマルを包括し
た学習が生じる環境として検討を進める.
1.1.3 OECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)
2030
VUCA(ブーカ)とは,Vola ili y(変動性・不安
定 さ ),Unce ain y( 不 確 実 性・ 不 確 定 さ ),
Complexi y(複雑性),Ambigui y(曖昧性・不明確さ)
という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で,
「予測不能な状態」を意味する.OECD5(経済協力開
発機構) は,「VUCA」が急速に進展する世界に直面
する中で,「教育の未来に向けての望ましい未来像を
描いた,進化し続ける学習の枠組み」として,2019年
に「OECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)
2030」を公表した(図1).
ラーニング・コンパスは,「私たちの望む未来
(Fu u e We Wan ),つまり個人のウェルビーイング
と集団のウェルビーイングに向けた方向性を示す」と
―  13  ―
共主体の保育において Agency が発揮される学習環境の検討
している.
ラーニング・コンパスの中核に位置するのが生徒
エージェンシー(s uden -agency)である.OECD
Fu u e o  Educa ion and Skills 2030 Concep ual
lea ning  amewo k Concep  no e: S uden  Agency
o  2030 の仮訳6(以降,S uden  Agency 仮訳とする)
は,エージェンシー(agency)を「自ら考え,主体
的に行動して,責任をもって社会変革を実現していく
力」としている.さらに,「エージェンシーは、社会
参画を通じて人々や物事,環境がより良いものとなる
ように影響を与えるという責任感を持っていることを
含意する」と説明している.また,「教師と生徒が教
えと学びの過程(教授・学習過程)を協働して創って
いくときに、共同エージェンシー(co-agency)を示し,
共同エージェンシーの概念によって、共有された目標
に向かって生徒が邁進できるように、生徒、教師、保
護者、そしてコミュニティが互いに手を取り合うこと
の大切さに気づくことができる」ともいう.そして,
共同エージェンシーは、「生徒が、共有された目標に
向かって邁進できるように支援する、保護者との、教
師との、コミュニティとの、そして生徒同士との、双
方向的な互いに支え合う関係として定義」し,生徒エー
ジェンシーを囲んで並走するエージェンシーのつなが
りこそが重要だとされている.OECD Educa ion
2030 プロジェクトでは,学習者を生徒(s uden )と
しているが,学校教育における学習者だけではなく,
乳幼児教育における学び手としての子どももその対象
であると考えられる.本稿ではそれらを育む保育の場
での協働をイメージしやすいように,「共主体」とい
う表現を用いて,共主体が育まれる学習環境について
検討する.
1.1.4 共同エージェンシーの太陽モデル
OECD(経済協力開発機構)では,2015 年から
OECD Fu u e o  Educa ion and Skills 2030プロジェ
クト(Educa ion 2030  プロジェクト)が進められて
いる.
社会学者ロジャー・ハートは ,生徒が社会で最も
無視されている構成員だと唱え,90 年代初頭に子ど
もによる活動や意思決定への参画レベルを表した「参
画のはしご」を提案した(図2)7.子どもを対象にし
たプロジェクトの多くは大人によって設計および運営
がなされ,生徒は果たすべき役割を有しないか,大人
から利用されるだけに留まっている.「参画のはしご」
をモデルとして,2018年に発表された「共同エージェ
ンシーの太陽モデル」は,10 ヵ国が任意でラーニン
グ・コンパスの発展のかじ取りに加わり,それぞれの
国からその活動を行うために選出されたOECD 生徒
フォーカスグループの生徒たちが作成したものである
(図3)8.
生徒たちは,エージェンシーは直線よりも円のほう
がより適切に表象されるとして,イメージをはしごか
ら太陽に変えたという.また,生徒たちは,共同エー
ジェンシーのすべての段階(表1)で大人との協働を
示すことを望んだが,新しく追加された「沈黙」の段
階では,若者が貢献できると若者も大人も信じておら
ず,大人がすべての活動を主導し,すべての意思決定
を行うのに対して,若者は沈黙を保つという.しかし,
共同エージェンシーの最初の 3 段階(「操り」,「お飾
り」,及び「形式主義・形だけの平等」)では,生徒は
意思決定に貢献できると考えるが,そうする機会を与
―  14  ―
畿央大学紀要 第17巻 第2号

―  15  ―
共主体の保育において Agency が発揮される学習環境の検討
えてもらえないことを指している.共同エージェン
シーの段階は高ければ高いほど,生徒と大人双方の
ウェルビーイングにとって良いということになる9.
なお,ここで使用している「若者」という言葉は,太
陽モデルのもとになった「参画のはしご」において表
記されている「young people」「adul  people」を「若
者」「大人」と訳されたもので,太陽モデルにおいて
も同様に,「若者」という言葉が用いられているもの
である.
太陽モデルは学童期以降の生徒により提案されたも
のである.そこで,これをモデルとして保育に援用す
るために,若者を子どもに,大人を保育者に,プロジェ
クトを遊びや活動に置き換えて考えたい.日本の保育
は,「環境を通して行う」ため,保育者としての願い
や思いは環境構成に込めることになる.無藤ら3は,
子どもを取り巻く環境であるモノ・人・コト全てが主
体的存在で相互的に影響し合うものであると指摘し,
アフォーダンス理論とナッジ理論の両理論の援用を提
案している.アフォーダンスとは「与える・提供する」
という意味の「アフォード(a o d)」という言葉か
ら名付けられた造語である。物が持つ形や色,材質な
どが,その物自体の扱い方を説明しているという考え
方で,人は探索して,もの(環境)の持つ価値(〜で
きる=アフォーダンス)を見つけ,行動するという理
論である.それに対して,ナッジ理論は,意図的にそ
の行動を起こさせるよう,環境や仕組み,情報提供を
設計するための理論で,「強制」ではなく「選択」で
きて,それが双方のプラスになることが条件とされて
いる.太陽プランのレベル8における,「若者(子ども)
がプロジェクト(遊びや活動)を主導し,意思決定は
若者(子ども)と大人(保育者)の協働で行われる.」
ための環境構成を行う際には,子どもが思わずやって
みたくなるようなナッジ理論に基づく仕掛けを,選択
の自由を担保しながら用意することが大切であろう.
しかし,あまりにそこに保育者の意図が強く働きすぎ
ると,子どもは考えずに誘導されることになる.そこ
で,保育者はアフォーダンス理論に基づき,子どもは
この環境からどんな価値を見いだして,どんな行動を
とるのかを想像し,その経験が子どもにどう影響を与
え,相互作用的に新しい遊びを展開できるのか等を検
討する必要がある.では,子どもが思わず保育者の意
図に誘導されて遊びを始めたとしたら,「プロジェク
ト(遊びや活動)の進行や運営は若者(子ども)と大
人(保育者)の対等な立場で共有される」ことは,実
現しないのだろうか.子どもや保育者がそれぞれ見通
しを立てて行動し振り返るという一連のサイクルのプ
ロセスにおいて,対話を繰り返すことで,進行や運営
は対等な立場で共有されるだろう.子どもと保育者の
どちらが遊びや活動の主導権を握るか?という二者択
一ではなく,場面に応じてそのバランスを考え,保育
者自身がモノやコトに価値を見出し行動する(ア
フォードされる)ことにより,子どもと共に保育者自
身も主体として保育に関わる姿勢が人的環境として学
習環境を構成する共主体となるのである.
実際,筆者らがネウボラやパイヴァコティの視察を
行ったフィンランドでは,ネウボラナースや保育者,
保護者,子どもが,対話を通して保育の場における共
主体として育まれる様子が伺えた。そこで、フィンラ
ンドの事例をもとに、学習環境に対する示唆を整理す
る.
ネウボラ(neu ola)はアドバイス(neu o)の場とい
う意味で,妊娠期から就学前までの子どもの健やかな
成長・発達の支援や家族全体の心身の健康サポートも
目的とするシステムである.フィンランドでは幼稚園
と保育所の区別はなく、それらを統合した日本のこど
も園のような施設がパイヴァコティである.
1.1.5. ECECパートナーシップ
フィンランドにおける乳幼児期の教育・保育
(ECEC)システムは,2015年に改訂され,新しく施
行されたECEC法に基づいている.ナショナルカリ
キュラムのガイドラインを基礎として,全ての都市が
独自に定義づけしたローカルカリキュラムのガイドラ
インを,その地域独自の特別なニーズや価値観に応え
る形で制定している.そして,就学前施設と保護者は
常にローカルカリキュラムの内容に影響を与え,参加
する機会が保障され,評価においてもその内容を認識
するという原則が,ECECパートナーシップとして明
記されている10. ECECパートナーシップの重要なア
プローチは,子どもの可能性を探し出すことであり,
成長,発達,または学習等の分野でのサポートの必要
性や,保護者と協力をしてサポートするための共通の
方略を作成することである11.このように、ローカル
カリキュラムの策定方法や就学前施設と保護者との
パートナーシップが,法律によって明確にシステムと
して位置付けられている.
1.2. 研究の目的
本研究の目的は,OECD(経済協力開発機構)が示す
co-agencyをモデルとした保育の場で共主体が育まれ
る学習環境についての検討を行うことである.そこで,
フィンランドの福祉・健康・教育システムを支えるネ
ウボラとパイヴァコティで,ネウボラナース(保健師
及び助産師),保育者,保護者,子どもが対話を繰り
返すことで,共主体としてagencyを発揮しているこ
とを明らかにする.そして,共主体が育まれる学習環
―  16  ―
畿央大学紀要 第17巻 第2号
境の鍵として,対話がどのような文脈で機能している
のかを明らかにし,日本の保育における学習環境デザ
インへの示唆を整理する.
2.研究の方法
2.1. 研究協力者
Kyllön neu ola(ユヴァスキュラ市内のネウボラ)
Kukkumäen päi äko i(ユヴァスキュラ市内の保育
施設)
2.2. 期間
2018年3月23日〜 27日,2019年3月18日〜 22日
2.3 方法
Kyllön neu olaでの定期健康診査への同行調査と,
Kukkumäen päi äko iでの参与観察及びインタビュー
の記録を分析する.記録は,フィールドノート,デジ
タルカメラ,ICレコーダを用いた.
3.結果
3.1 ネウボラでの健康診査
ネウボラでの定期健康診査について,満3歳と満4
歳のタイミングで同行調査を行った.出産後の子ども
を対象とする「子どもネウボラ」では,子どもが4 ヶ月,
18 ヶ月,4歳に達した際に総合健康診査が実施される.
総合健康診査は医師と保健師により実施されるがそれ
以外の定期健康診査は原則として保健師が実施するた
め,本稿では.健康診査(以降は,健診と表記)と総
合健康診査(総合健診)を区別して表記している12.
2019年は,ネウボラナースによる満4歳の健診に同行
した.健診の項目は,満4歳が最も多く,親子関係,
子どもの社会的発達,学習困難,子どもの長所,及び
の健康に関わる生活習慣を取り上げ,定期的な歯磨き,
健康的な食生活,口腔ケアにおける自身が行っている
ケアなどについても話し合われた.さらに,幼児の神
経学的な発達状況を把握するために開発されたキット
LENEを用いた検査も実施され,言葉の発達に対する
観察とフォローアップが継続的に行われていた.健診
の際は,ネウボラナースが,家族の健康状態や生活習
慣について,両親と子どもの両方から丁寧に聞き取り
を行い,子どもだけでなく家族全体という観点から変
化を話し合う姿勢が明確であった.フィンランド大使
館は,ネウボラナースの継続的な支援について,「基
本的には妊娠期から子どもが小学校にあがるまで,同
じ担当者が継続的にサポートをするので,お互いに信
頼関係が築きやすく,問題の早期発見,予防,早期支
援につながりやすい」と説明している13が,2018年と
2019年は異なるネウボラナースが担当していた.しか
し,ネウボラを利用している保護者は,「担当者が同
じであるかどうかはあまり大きな問題ではなく,子ど
もが誕生してから今までの健診の結果が全て一元管理
されていて,それをもとに毎回丁寧な対話がなされる
ことが大きな安心感につながっている」という.30分
程度の健診において,発達を検査するというよりも,
子どもや保護者と対話する過程で必要な項目のチェッ
クを行なっていた.
3.2 ネウボラと就学前施設との連携
満4歳の健診においては,保護者の許可を得た上で,
総合健診前に,保育施設の職員による評価を得るよう
に手配される.ユヴァスキュラ市における評価項目は,
①子どもの集団行動およびやりとりの様子,②子ども
の遊び方や子どもの興味の対象,③自由な場面および
指導がある場面での子どもの運動,および子ども自身
や子どもの環境の認識の仕方,④日常の活動,感覚機
能および刺激への反応など,その他の特記事項⑤子ど
もに対し,すでに発達の支援のために開始された検査
またはリハビリ措置の有無(ある場合は具体的に記載)
であった.これらは,集団生活の場での社会性,友達
関係,怒りの感情表現について,総合的な成長と発達
を評価し支援の必要性を早期に確認することに役立っ
ている.特に,遊びの場面における子どもの長所と発
達に関する保育者の気づきは重要であることから,総
合健診では,パイヴァコティに対して,必要とされる
支援を保護者の書面による許可を得て,フィードバッ
クされる.どの場面においても,保護者や子どもが常
に参加していた.また,パイヴァコティで担当者がみ
とった結果が記されたシートは,保護者が署名してネ
ウボラに持参する.つまり,パイヴァコティの子ども
に対する評価を保護者が共有するということである.
フィンランドでの全ての教育的活動は、子ども一人一
人に対して作成される個別教育計画(Vasu)と絡み
合って計画されるため,年に2回,教師と保護者がこ
のVasuについて話し合うミーティングがある.Vasu
についての話し合いでは.子ども本人の評価も交えな
がら,前回のVasuミーティングでは,何を目標にし
ていたかを確認し,それがこの半年で達成できたかを
話し合い,新しい教育目標を設定し,最後に何か心配
事や園への不満がないか等丁寧な聞きとりがある.
Vasuの評価として教師が活用しているアセスメント
シートは地域毎に実情やニーズに応じて作成してい
て,それを見ながら話し合いは進められる.評価は,「で
きる+,まだできない-,芽生え始めたばかりの能力
-+,大人のサポートがあればできる+-」という表
現で記述される.ここでの評価の視点が,到達度評価
ではなく,今子どもが,スキルを身につけるプロセス
においてどの地点にいるのを基準にしているので,援
―  17  ―
共主体の保育において Agency が発揮される学習環境の検討
助の手立てや目標を立てやすくしている.
3.3 ネウボラと保育施設における対話
2019年に東京医科大学で上野ら14が,「ネウボラで
の子育て・家族支援 〜“子育て支援 Le ’s Talk!子
どものことを話そう”の実践」において,フィンラン
ドでは,2001年から「子どもと家族のための効果的な
プログラム(
The E ec i e Child & Family P og amme
)」
という国家的プロジェクトがスタートしていることが
報告された.プログラムの主たる目的は,①こころの
病気を抱えている親と子ども・家族のニーズとエビデ
ンスに基づいた支援を研究し実践すること,②メンタ
ルヘルスの予防と啓発を推進することだという.フィ
ンランドの心理士,家族療法家であるMikko
Lohilah i15は,「子育て支援Le ’s Talk!子どものこと
を話そう(LT)」は,フィンランドが発祥のオープン
ダイアログの手法を用いており,「保健・医療・福祉
機関だけでなく,学校,幼稚園,保育園,ネウボラ,
学校保健など多様な場で行われている」という.そこ
で,実際にネウボラ検診や保育施設でのVasuミーティ
ングを経験した矢田が,上野ら14が翻訳したLTで用い
られる幼児期後期(3 〜 5歳)の成長記録とネウボラ
健診,Vasuミーティングでの質問項目を比較した.
表中の○が話題として取り上げられた内容,△は少し
話した内容,空欄は話題にならなかった内容である.
ネウボラでは,充分な時間を確保し、1対1のゆった
りとした対話を通して,ネウボラナースは保護者の言
葉を傾聴する.Vasuミーティングは年に2回実施され,
子どもの目標について,子ども自身の目標や保護者が
どのような点を伸ばして欲しいと思っているか等を保
育者と話し合う場である.ネウボラでの保護者への質
問のしかたは,「子どもの健康状態,能力,起こりう
る発達上あるいは行為上の問題についての両親の理解
は次のように質問することで確認できる」として,「お
子さんのことで,どういった事柄がうまくいっていま
すか?」「お子さんのことで,どういった事柄がもっ
とうまくいって欲しいと思っていますか?」「現時点
で,何か不安に思っていることはありますか?」16と
いう問いかけが実際にされていた. Vasuミーティン
グにおいても,子どもの生活に関わることでうまく
いっていること,これまでうまくいったことなどの「強
み」についてと,子どものことで心配なこと,もっと
気をつけてみたり,サポートした方が子どものために
なると思うこと等の気になる点について保護者が語る
ことを傾聴する点が共通している.一方で,傾聴に先
―  18  ―
畿央大学紀要 第17巻 第2号
立つ保護者への質問の仕方についてはガイドラインが
定まっている.このガイドラインは保護者が親になる
ことや,パートナーとのより良い関わり方や子どもの
強みや今後伸ばしていくべきスキル等の捉え方などを
アフォードする役割を担っている.保護者は,ネウボ
ラナースとのガイドラインに沿った対話を通して,語
りながら自分の行為や考えを振り返り,ウェルビーイ
ングにむけて変革する力を育んでいるとも言える.ネ
ウボラとはアドバイスの場と紹介されており,もちろ
ん様々なアドバイスを丁寧に受けることができる場で
ある.それに加えて,対話を通して保護者が行動主体
としての自分を親としての自覚につなげ,変容を促す
場であることが示された.また,ネウボラナースは健
診において,対話を通して保護者の言葉を傾聴し,子
どもや保護者を取り巻く環境をよりよくするために専
門的なスキルを有する主体として関わっている.さら
に,健診において,ネウボラナースは保護者との対話
だけではなく,子ども本人とも対話する.4歳児に対
してネウボラナースが直接何かを指導することはな
く,子どもとの対話を通して子どもの言葉を傾聴する
ことで子どもを行動主体と位置付けていた.
Kukkumäen päi äko iで の 参 与 観 察 及 び イ ン タ
ビューにおいては,「環境を通して行う教育」や「遊
びを通しての指導」は,フィンランドでも重視されて
いるが,保育の主導権を保育者と子どもとどちらが担
うのかという視点には拘っていないことが示唆され
た.どちらかと言うと資質・能力につながるスキルは,
スキルとして潔く提示し,それを活用するかどうかも
含めてどのように扱い,どのように位置付けるかは子
どもに任せていた.「遊び」自体に保育者が参画する
姿はあまり見られなかったが,子どもがどのようにモ
ノやコトの持つ価値を見つけ行動につなげているかに
ついては丁寧に見とっていた.
4.考察
本研究の目的は,OECD(経済協力開発機構)が示す
co-agencyをモデルとした,保育の場で共主体が育ま
れる学習環境についての検討を行うことである.
co-agencyは文部科学省の仮訳において「共同エー
ジェンシー」と訳されていることから,共同を協働と
すべきかどうかという議論も含めて適当な日本語訳が
見当たらないことを示している.それは,従来
agencyが示す概念が存在しなかったことを示すもの
でもある.しかし,日本の保育においては個の成長と
合わせてクラス等の集団の成長を捉えようとしてき
た.これが,一斉保育か自由保育か,保育者主導か子
ども主導かという議論を引き起こしてきた所以でもあ
るが,集団の成長をagencyの概念で捉えると,個の
成長と共にそれぞれが相互に学び合う共主体として捉
えることにつながり,二者択一の議論から解放される
のである.さらに,子どもが主体的に様々なモノやコ
ト,人に出会い,刺激を受けて挑戦できる状況を作り
出すことが保育者の役割であり環境を通して行う教育
になる.すなわち,太陽モデルにおける「若者(子ど
も)がプロジェクト(遊びや活動)を主導」すること
につながり,保育者自身も行動主体としてモノやコト,
人と繋がり,アフォードされることが学習環境の一つ
となって実現される.そこからさらに,保育者の意図
により構成された環境にナッジされた子どもが行動を
選択することにより,共主体が育まれる.太陽モデル
における「意思決定は若者(子ども)と大人(保育者)
の協働で行われる」ことにつながるのである.ここで
の,ナッジされるとは,保育者によって構成された環
境によって,意図された行動を起こさせられることを
指すが,強制されることではなく,あくまでも子ども
の自由選択を尊重するものである.
ネウボラナースや保育者,保護者,子どもら個人も,
日常的に経験する対話を通して行動主体としての自覚
をもって共主体が育まれる.4歳児健診の際に,子ど
もが,自らの育ちについてテストされて他者と比較さ
れるのではなく,対話を通して自分の言葉を大人が傾
聴することで確認されるという経験は,個として尊重
されていることを実感することにつながっている.こ
れは,主体として社会に関わる姿勢を育む素地となる
であろう.そして,それぞれが共有する目標が個人の
ウェルビーイングであり,最終的には集団のウェル
ビーイングにつながる場であるネウボラを,共主体が
育まれる学習環境として位置付けることができる.
日本では対話における傾聴について,カウンセリン
グマインドとして語られ,カウンセラーや教師の資質
の一つとして示されることが多い.文科省17は「深い
幼児理解を基礎とした総合的な指導力・保育構想力に
加え,多様な保育ニーズに対応するための能力の習得
が必要である.」とし,「子育て相談への対応やカウン
セリングマインドの修得」「などについての能力を養
うための研修プログラムが必要である.」と述べてい
る.
カウンセリングマインドの基本姿勢は,米国の臨床
心理学者カール・ロジャーズが提唱した,傾聴の3条
件(自己一致・共感的理解・無条件の受容)から成り
立っているという.このような基本姿勢で日常のやり
取りを通して多様な保育ニーズに対応することは非常
に重要である.一方で,健診や保護者との面談等では
計測やできる/できない等の評価については指標が示