ELSI Origins Outreach Newsletter Issue 12
Abstract
The Origins Newsletter highlights key research developments, events, and perspectives from the Earth-Life Science Institute (ELSI). Each issue provides accessible insights into the latest discoveries in origins science while showcasing the people and ideas shaping the field.
Full text
この地球には確認されているだけでも約190 万種の生物がい るといわれていますが、正確な数は誰にもわかりません。地球 は生命にあふれていて、「生命の宝庫」と呼ぶにふさわしい状 況です。 しかし、宇宙に目を転じてみるとどうでしょう。これまでの ところ、地球以外で生命の存在が確認された天体はありませ ん。なぜ、地球だけがこれほどたくさんの生命の存在する惑星 になったのでしょうか。そもそも、生命とは何なのでしょうか。 発足から10 年以上、この問いに向き合っているのが、地球 生命研究所(ELSI)の研究者たちです。「生命とは何か」とい う問いは、「生物がいつ、どのように誕生したのか」という生 命の起源への問いにつながります。 現存する生物は、遺伝情報を記録するデオキシリボ核酸 (DNA)、リボ核酸(RNA)といった核酸、化学反応を媒介す るタンパク質、内側と外側を区切る膜分子などの有機化合物に よって構成されています。しかし、これらの部品を組み合わせ ても生命ができるわけではありません。 生命ではない有機化合物から、どのように生命が誕生したの でしょうか。この問いの答えを出すためには、生物学だけでな く、化学、物理学、天文学、地球惑星科学など、様々な学問の 知識を結集させる必要があります。ELSI には、この問題を解 き明かそうと、たくさんの研究者が集まっています。 ある研究者は原始的な生物がたくさんいる深海底の環境を研 究し、他の研究者は人工的につくった核酸やタンパク質を使っ て生命の進化を再現するなど、その研究手法も様々です。個性 的な研究者が学問分野の垣根を越え、いろいろな方法を活用す ることのできる研究体制がELSI の強みであり、生命の起源と いう難題に迫るための大きな武器なのです。 私はアメリカ・ワシントンD.C. の近郊で生まれ育ちました。 幼い頃はペットをたくさん飼っていて、動物好きでした。また、 両親がスミソニアン航空宇宙博物館に勤務していたこともあ り、宇宙にも興味を持っていました。 大学では生化学を学んでいましたが、生物学と宇宙の両方の 分野に携わる道がないかと探したときに、アストロバイオロ ジーという分野があること、この分野の研究をしているELSI が日本にあることを知りました。 ゴジラやウルトラマンのファンだった私は、ELSI に行きた いと考えるようになりました。指導教員の助言を受け、研究室 では南極で光合成をおこなう藻類などの研究をしました。さら に、NASA(アメリカ航空宇宙局)ゴダード宇宙飛行センター でのインターンシップに参加し、火星探査車キュリオシティの ミッションメンバーと共に、火星の土壌におけるバイオシグネ チャー(生命存在指標)の特性評価をおこないました。 そして、念願が叶って、ELSI の一員として修士過程で研究 をすることになったのです。修士課程では、土星の衛星である エンセラダスを対象に、ドイツの研究者と共同で研究していま す。エンセラダスに生命がいた場合に、観測できるバイオシグ ネチャーを予測し、将来のエンセラダス探査に備えています。 最近、修士課程を修了し、博士課程の研究テーマに取り組み 始めました。私のELSI での典型的な一日は、午前中に分析や 実験をおこない、午後に研究分野の文献を読んで、自分の論文 を書き、指導教員に送ります。そして、週に1回、日本語のク ラスを受け、日本語に磨きをかけています。 放課後は、大学の文化祭で開催される筋肉コンテストに向け てジムでトレーニングにいそしみ、週末は趣味の散歩やお菓子 作り、ガーデニングを楽しんでいます。 また、新入生や留学生の生活をサポートする学生グループの リーダーとしても活動しています。将来は次世代の学生を指導 し、分野を超えた国際研究を行えるようになることを、目指し ています。 [ 発行 ] 東京工業大学 地球生命研究所(ELSI: Earth-Life Science Institute) 〒152-8550 東京都目黒区大岡山 2-12-1-IE-1 TEL:03-5734-3414 E-mail: [email protected] ELSI website: www.elsi.jp Follow ELSI on X, formerly Twitter: @ELSI_origins Facebook : @ELSIorigins 取材・文/荒舩良孝 ELSI website 公式ウェブサイトやSNSで、より詳しい情報をお届けします。 X( 旧 Twitter) 特集:Understanding Origins of Life Facebook いろいろな手法を駆使し、生命の起源に迫る ふだん、あまり語られることのない大学院生たちの生活。 ELSI の学生がどのような生活を送り、研究に取り組んで いるのか、語ってもらいました。 生物と宇宙の両方に関わる アストロバイオロジーを研究 Maxwell Craddock 博士後期課程 1 年 ELSI Life Style 研究所内でガーデンクラブを主催し植物を育てている。 土星の衛星エンセラダス内部には地球外生命がいる可能性がある。 (画像提供:NASA/JPL-Caltech) 東京工業大学と東京医科歯科大学が統合し、2024年10月1日に東京科学大学が誕生します。 東京工業大学 地球生命研究所 2024.9.15 vol. ELSI 通信 12 Originsvol12.indd686-687Originsvol12.indd686-687 2024/09/0517:392024/09/0517:39
地球では細胞を持つ生物だけでなく、細胞を持たないウ イルスも進化してきました。生物とウイルスは協同的に 進化してきたという仮説もあります。ウイルスの進化の 過程を詳しく知ることは、生物の進化の過程を知ること にもつながるのです。 ウイルス進化を再現し 生命との関係を探る 寺坂 尚紘 特任准教授(合成生物学) Anuradha Thakur 研究員(化学) 生命の起源を探るうえで、大きな謎となっているのが生 命の材料となった有機化合物がやって来た経路です。地 球初期の大気と海洋の相互作用を考えることで、必要な 有機化合物がつくられた過程や、それらの材料から生命 がつくられた過程がわかってくるかもしれません。 地球初期の大気や海洋を再現し 生命誕生の謎に迫る 私の専門は化学生命工学といい、化学的な視点で生物をとら えていく分野です。学部生のころは、古細菌のRNA を修飾す る酵素の解析をする生化学分野の研究をしていました。しか し、天然の分子を使うよりも、自分で分子をつくり、生命シス テムのメカニズムを解き明かしていきたいと思うようになり、 修士から現在の分野に移りました。 もともと生命の起源に興味があったことと、若手研究者の裁 量が大きく、主体的に研究できる環境に魅力を感じて2022 年 6月からELSI に着任し、研究室を立ち上げました。私の研究室 では、RNA とタンパク質を使って、ウイルスを実験室内で進 化させる研究をしています。 ウイルスは遺伝情報を記録しているDNA やRNA といった核 酸をタンパク質で包みこんでいます。幾何学的な構造で、自分 自身だけでは複製をつくることはできませんが、宿主となる細 胞に感染することで、その細胞の複製システムを使って増殖 し、細胞の外に出ていきます。 生物にはRNA やDNA を分解する酵素があります。天然のウ イルスはそのような酵素から遺伝情報を守るためにタンパク質 の殻をつくっています。長い進化の過程を経てタンパク質の殻 を獲得し、現在では様々な種類のウイルスが存在しています。 ウイルスがどのような進化をしてきたかについては、いろい ろな仮説が示されていましたが、時間を巻き戻してその現場を 見ることはできません。そこで、人工的にウイルスの進化を再 現する実験をおこないました。 まず、ランダムな変異が発生するように処理をしたタンパク 質を大腸菌の中で発現させます。そして、タンパク質の情報を 持つメッセンジャー RNA を集めて取り出します。この作業を 繰り返すことで、細胞内環境で、RNA を分解から守ることが できるタンパク質を選択できます。 生き残ったタンパク質を調べてみると、RNA の周囲を取り 囲んで遺伝情報を守るものが出現していました。最初はウイル スと関係ないタンパク質でも、変異と選択を繰り返すことで、 ウイルスと同じような構造を持つようにタンパク質を進化させ ることができたのです。 進化の過程を詳しく解析することで、ウイルスは内包される RNA などの核酸と周りを取り囲むタンパク質が協同的に進化 してきたこともわかってきました。核酸は内包されやすいよう に構造が変化しますし、タンパク質は中に内包する核酸が大き くなると、集合様式が変わり、穴のない大きな殻をつくるよう になります。 遺伝情報を分析すると、生物とウイルスはお互いに影響し あって進化してきたことがわかります。ウイルスの進化を研究 することは、生物の進化の過程を詳しく知ることにもつながり ます。今後は、より短時間で効率的に実施できる実験手法など も開発しながら、細胞内でウイルスがつくられるしくみがどの ように獲得されたのかも解き明かしていきたいです。生命の進 化を解明するだけでなく、ワクチンの開発など、医療にも役立 つ知識や技術が確立されると期待しています。 もともと化学が好きで、化学教師をしていました。生徒たち に教えているうちに、新たな知識を積み上げていく研究者を志 すようになりました。 ELSI では深海に注目して研究を進めています。最近の研究 結果から、初期の地球大気には有機硫黄化合物が豊富に存在し ていた可能性が示されています。 大気中の有機硫黄化合物は、海洋の中にあるリン酸塩、アミ ノ酸などの分子と反応して、生命を形成するために欠かせない 生体高分子の材料となった可能性があります。私たちは、この 仮説を検証するために研究しています。 地球初期の大気や海水を模擬した環境を用意し、実験するこ とで、大気中に含まれていた有機硫黄化合物が、海洋にまで到 達する道のりや、海洋の中でどのような反応があったのかなど 明らかにしたいと考えています。大気と海洋にまたがる化学進 化へのアプローチによって、生命を構成する重要な物質の形成 経路がわかれば、生命の起源に大きく迫ることができます。 この研究を進めるうえで特に重視しているのが、深海にある 熱水噴出孔です。熱水噴出孔は文字通り、海底から熱水が噴出 している場所です。栄養分の少ない深海底には、生き物がほと んど見られませんが、熱水噴出孔の周りには独自の生態系がつ くられています。 熱水噴出孔からの噴出物には硫化水素、メタン、水素、二酸 化炭素など、様々な化合物が含まれていて、それらの化合物を 分解することでエネルギーを得る微生物がたくさん集まりま す。その微生物の中には、地球生命の共通祖先に近い遺伝情報 を持つものもあります。 熱水噴出孔やその付近の深海環境を詳しく研究することに よって、地球上に生命が誕生する前の世界で、有機硫黄化合物 がどのような役割を果たしたのかがわかってくるはずです。 硫黄は初期の地球大気ではほんの少ししか存在しない元素で す。しかし、その動きをしっかりと追い、海中でどのような反 応があったのかを詳しく知ることで、地球生命誕生につながる 化学進化の重要なプロセスを明らかにできるのではないかと考 えています。 生命誕生の化学プロセスは、地球以外の天体でも起こる可能 性があります。そのプロセスを知ることができれば、今後の地 球外生命の探査にも有用な情報となるでしょう。 私が取り組む実験によって、地球生命の誕生に関わる重要な メカニズムを発見していきたいです。そして、専門外の人たち にも、生命の起源やそのプロセスに興味を持ってもらえるきっ かけをつくることができたら、とても嬉しいです。 ELSI は、国際協力とイノベーションを促進するダイナミッ クで協力的な研究環境を提供してくれます。様々な分野の研究 者が集い、多様な視点と専門知識を共有することで、生命の起 源という難題に立ち向かうための新たな発想が得られます。 この環境はとても刺激的で、研究所の一員であることを誇ら しく思います。ELSI での研究を積み重ね、研究者としてもさ らに成長していきたいです。 INTERVIEW 01 INTERVIEW 02 細胞を使わずにタンパク質をつくる「無細胞翻訳系」と呼ばれる実験手法 も活用する。 寺坂さんたちは実験を重ね、より大きな核酸を守る殻をつくるようにタン パク質が進化することを確かめた。 生命の材料がどのように生まれたのかを探るため、日々、実験をする。 深海底にある熱水噴出孔の周辺は、地球初期の環境とよく似ていると考え られている。(画像提供:Pacific Coastal and Marine Science Center) Originsvol12.indd688-689Originsvol12.indd688-689 2024/09/0517:392024/09/0517:39
地球では細胞を持つ生物だけでなく、細胞を持たないウ イルスも進化してきました。生物とウイルスは協同的に 進化してきたという仮説もあります。ウイルスの進化の 過程を詳しく知ることは、生物の進化の過程を知ること にもつながるのです。 ウイルス進化を再現し 生命との関係を探る 寺坂 尚紘 特任准教授(合成生物学) Anuradha Thakur 研究員(化学) 生命の起源を探るうえで、大きな謎となっているのが生 命の材料となった有機化合物がやって来た経路です。地 球初期の大気と海洋の相互作用を考えることで、必要な 有機化合物がつくられた過程や、それらの材料から生命 がつくられた過程がわかってくるかもしれません。 地球初期の大気や海洋を再現し 生命誕生の謎に迫る 私の専門は化学生命工学といい、化学的な視点で生物をとら えていく分野です。学部生のころは、古細菌のRNA を修飾す る酵素の解析をする生化学分野の研究をしていました。しか し、天然の分子を使うよりも、自分で分子をつくり、生命シス テムのメカニズムを解き明かしていきたいと思うようになり、 修士から現在の分野に移りました。 もともと生命の起源に興味があったことと、若手研究者の裁 量が大きく、主体的に研究できる環境に魅力を感じて2022 年 6月からELSI に着任し、研究室を立ち上げました。私の研究室 では、RNA とタンパク質を使って、ウイルスを実験室内で進 化させる研究をしています。 ウイルスは遺伝情報を記録しているDNA やRNA といった核 酸をタンパク質で包みこんでいます。幾何学的な構造で、自分 自身だけでは複製をつくることはできませんが、宿主となる細 胞に感染することで、その細胞の複製システムを使って増殖 し、細胞の外に出ていきます。 生物にはRNA やDNA を分解する酵素があります。天然のウ イルスはそのような酵素から遺伝情報を守るためにタンパク質 の殻をつくっています。長い進化の過程を経てタンパク質の殻 を獲得し、現在では様々な種類のウイルスが存在しています。 ウイルスがどのような進化をしてきたかについては、いろい ろな仮説が示されていましたが、時間を巻き戻してその現場を 見ることはできません。そこで、人工的にウイルスの進化を再 現する実験をおこないました。 まず、ランダムな変異が発生するように処理をしたタンパク 質を大腸菌の中で発現させます。そして、タンパク質の情報を 持つメッセンジャー RNA を集めて取り出します。この作業を 繰り返すことで、細胞内環境で、RNA を分解から守ることが できるタンパク質を選択できます。 生き残ったタンパク質を調べてみると、RNA の周囲を取り 囲んで遺伝情報を守るものが出現していました。最初はウイル スと関係ないタンパク質でも、変異と選択を繰り返すことで、 ウイルスと同じような構造を持つようにタンパク質を進化させ ることができたのです。 進化の過程を詳しく解析することで、ウイルスは内包される RNA などの核酸と周りを取り囲むタンパク質が協同的に進化 してきたこともわかってきました。核酸は内包されやすいよう に構造が変化しますし、タンパク質は中に内包する核酸が大き くなると、集合様式が変わり、穴のない大きな殻をつくるよう になります。 遺伝情報を分析すると、生物とウイルスはお互いに影響し あって進化してきたことがわかります。ウイルスの進化を研究 することは、生物の進化の過程を詳しく知ることにもつながり ます。今後は、より短時間で効率的に実施できる実験手法など も開発しながら、細胞内でウイルスがつくられるしくみがどの ように獲得されたのかも解き明かしていきたいです。生命の進 化を解明するだけでなく、ワクチンの開発など、医療にも役立 つ知識や技術が確立されると期待しています。 もともと化学が好きで、化学教師をしていました。生徒たち に教えているうちに、新たな知識を積み上げていく研究者を志 すようになりました。 ELSI では深海に注目して研究を進めています。最近の研究 結果から、初期の地球大気には有機硫黄化合物が豊富に存在し ていた可能性が示されています。 大気中の有機硫黄化合物は、海洋の中にあるリン酸塩、アミ ノ酸などの分子と反応して、生命を形成するために欠かせない 生体高分子の材料となった可能性があります。私たちは、この 仮説を検証するために研究しています。 地球初期の大気や海水を模擬した環境を用意し、実験するこ とで、大気中に含まれていた有機硫黄化合物が、海洋にまで到 達する道のりや、海洋の中でどのような反応があったのかなど 明らかにしたいと考えています。大気と海洋にまたがる化学進 化へのアプローチによって、生命を構成する重要な物質の形成 経路がわかれば、生命の起源に大きく迫ることができます。 この研究を進めるうえで特に重視しているのが、深海にある 熱水噴出孔です。熱水噴出孔は文字通り、海底から熱水が噴出 している場所です。栄養分の少ない深海底には、生き物がほと んど見られませんが、熱水噴出孔の周りには独自の生態系がつ くられています。 熱水噴出孔からの噴出物には硫化水素、メタン、水素、二酸 化炭素など、様々な化合物が含まれていて、それらの化合物を 分解することでエネルギーを得る微生物がたくさん集まりま す。その微生物の中には、地球生命の共通祖先に近い遺伝情報 を持つものもあります。 熱水噴出孔やその付近の深海環境を詳しく研究することに よって、地球上に生命が誕生する前の世界で、有機硫黄化合物 がどのような役割を果たしたのかがわかってくるはずです。 硫黄は初期の地球大気ではほんの少ししか存在しない元素で す。しかし、その動きをしっかりと追い、海中でどのような反 応があったのかを詳しく知ることで、地球生命誕生につながる 化学進化の重要なプロセスを明らかにできるのではないかと考 えています。 生命誕生の化学プロセスは、地球以外の天体でも起こる可能 性があります。そのプロセスを知ることができれば、今後の地 球外生命の探査にも有用な情報となるでしょう。 私が取り組む実験によって、地球生命の誕生に関わる重要な メカニズムを発見していきたいです。そして、専門外の人たち にも、生命の起源やそのプロセスに興味を持ってもらえるきっ かけをつくることができたら、とても嬉しいです。 ELSI は、国際協力とイノベーションを促進するダイナミッ クで協力的な研究環境を提供してくれます。様々な分野の研究 者が集い、多様な視点と専門知識を共有することで、生命の起 源という難題に立ち向かうための新たな発想が得られます。 この環境はとても刺激的で、研究所の一員であることを誇ら しく思います。ELSI での研究を積み重ね、研究者としてもさ らに成長していきたいです。 INTERVIEW 01 INTERVIEW 02 細胞を使わずにタンパク質をつくる「無細胞翻訳系」と呼ばれる実験手法 も活用する。 寺坂さんたちは実験を重ね、より大きな核酸を守る殻をつくるようにタン パク質が進化することを確かめた。 生命の材料がどのように生まれたのかを探るため、日々、実験をする。 深海底にある熱水噴出孔の周辺は、地球初期の環境とよく似ていると考え られている。(画像提供:Pacific Coastal and Marine Science Center) Originsvol12.indd688-689Originsvol12.indd688-689 2024/09/0517:392024/09/0517:39
この地球には確認されているだけでも約190 万種の生物がい るといわれていますが、正確な数は誰にもわかりません。地球 は生命にあふれていて、「生命の宝庫」と呼ぶにふさわしい状 況です。 しかし、宇宙に目を転じてみるとどうでしょう。これまでの ところ、地球以外で生命の存在が確認された天体はありませ ん。なぜ、地球だけがこれほどたくさんの生命の存在する惑星 になったのでしょうか。そもそも、生命とは何なのでしょうか。 発足から10 年以上、この問いに向き合っているのが、地球 生命研究所(ELSI)の研究者たちです。「生命とは何か」とい う問いは、「生物がいつ、どのように誕生したのか」という生 命の起源への問いにつながります。 現存する生物は、遺伝情報を記録するデオキシリボ核酸 (DNA)、リボ核酸(RNA)といった核酸、化学反応を媒介す るタンパク質、内側と外側を区切る膜分子などの有機化合物に よって構成されています。しかし、これらの部品を組み合わせ ても生命ができるわけではありません。 生命ではない有機化合物から、どのように生命が誕生したの でしょうか。この問いの答えを出すためには、生物学だけでな く、化学、物理学、天文学、地球惑星科学など、様々な学問の 知識を結集させる必要があります。ELSI には、この問題を解 き明かそうと、たくさんの研究者が集まっています。 ある研究者は原始的な生物がたくさんいる深海底の環境を研 究し、他の研究者は人工的につくった核酸やタンパク質を使っ て生命の進化を再現するなど、その研究手法も様々です。個性 的な研究者が学問分野の垣根を越え、いろいろな方法を活用す ることのできる研究体制がELSI の強みであり、生命の起源と いう難題に迫るための大きな武器なのです。 私はアメリカ・ワシントンD.C. の近郊で生まれ育ちました。 幼い頃はペットをたくさん飼っていて、動物好きでした。また、 両親がスミソニアン航空宇宙博物館に勤務していたこともあ り、宇宙にも興味を持っていました。 大学では生化学を学んでいましたが、生物学と宇宙の両方の 分野に携わる道がないかと探したときに、アストロバイオロ ジーという分野があること、この分野の研究をしているELSI が日本にあることを知りました。 ゴジラやウルトラマンのファンだった私は、ELSI に行きた いと考えるようになりました。指導教員の助言を受け、研究室 では南極で光合成をおこなう藻類などの研究をしました。さら に、NASA(アメリカ航空宇宙局)ゴダード宇宙飛行センター でのインターンシップに参加し、火星探査車キュリオシティの ミッションメンバーと共に、火星の土壌におけるバイオシグネ チャー(生命存在指標)の特性評価をおこないました。 そして、念願が叶って、ELSI の一員として修士過程で研究 をすることになったのです。修士課程では、土星の衛星である エンセラダスを対象に、ドイツの研究者と共同で研究していま す。エンセラダスに生命がいた場合に、観測できるバイオシグ ネチャーを予測し、将来のエンセラダス探査に備えています。 最近、修士課程を修了し、博士課程の研究テーマに取り組み 始めました。私のELSI での典型的な一日は、午前中に分析や 実験をおこない、午後に研究分野の文献を読んで、自分の論文 を書き、指導教員に送ります。そして、週に1回、日本語のク ラスを受け、日本語に磨きをかけています。 放課後は、大学の文化祭で開催される筋肉コンテストに向け てジムでトレーニングにいそしみ、週末は趣味の散歩やお菓子 作り、ガーデニングを楽しんでいます。 また、新入生や留学生の生活をサポートする学生グループの リーダーとしても活動しています。将来は次世代の学生を指導 し、分野を超えた国際研究を行えるようになることを、目指し ています。 [ 発行 ] 東京工業大学 地球生命研究所(ELSI: Earth-Life Science Institute) 〒152-8550 東京都目黒区大岡山 2-12-1-IE-1 TEL:03-5734-3414 E-mail: [email protected] ELSI website: www.elsi.jp Follow ELSI on X, formerly Twitter: @ELSI_origins Facebook : @ELSIorigins 取材・文/荒舩良孝 ELSI website 公式ウェブサイトやSNSで、より詳しい情報をお届けします。 X( 旧 Twitter) 特集:Understanding Origins of Life Facebook いろいろな手法を駆使し、生命の起源に迫る ふだん、あまり語られることのない大学院生たちの生活。 ELSI の学生がどのような生活を送り、研究に取り組んで いるのか、語ってもらいました。 生物と宇宙の両方に関わる アストロバイオロジーを研究 Maxwell Craddock 博士後期課程 1 年 ELSI Life Style 研究所内でガーデンクラブを主催し植物を育てている。 土星の衛星エンセラダス内部には地球外生命がいる可能性がある。 (画像提供:NASA/JPL-Caltech) 東京工業大学と東京医科歯科大学が統合し、2024年10月1日に東京科学大学が誕生します。 東京工業大学 地球生命研究所 2024.9.15 vol. ELSI 通信 12 Originsvol12.indd686-687Originsvol12.indd686-687 2024/09/0517:392024/09/0517:39