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Institutional Limits and Usability of the Remote Islands Statistical Yearbook: On the Invisibility of Non-Designated Islands

Usui, Takehiro; Ishida, Atushi; Ori, Akemi; Matsumura, Yuko

Abstract

This research note examines the structural characteristics and regional distribution of individuals who were granted exemption or postponement from compulsory schooling in postwar Japan. Before the compulsory schooling of special schools was introduced in 1979, approximately 750,000 children had been excluded from compulsory education, and traces of this history remain visible in contemporary statistics. Drawing on both a historical review of the institutional framework and statistical analysis of the 2020 Population Census, this study employs ``incomplete primary education'' as a proxy indicator to capture regional variations. The findings reveal that, while rare nationwide, non-completion is concentrated in certain localities, reflecting the intersection of institutional constraints and geographic conditions. Furthermore, the study highlights an ``invisibility'' effect: once individuals exceed school age, they can no longer be traced in official statistics. These results suggest that the effective guarantee of compulsory education requires renewed institutional arrangements that integrate statistical monitoring with educational provision. This research note thus contributes foundational knowledge on compulsory education non-completion and offers insights for policy design and for connecting historical legacies of exclusion to the current debate on lifelong learning rights.

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Preprint Version: October 26, 2025 This paper is intended for discussion and has not been peer-reviewed. 離島統計年報の制度的限界と活用可能性―指定外離島の不可視化をめぐっ て Institutional Limits and Usability of the Remote Islands Statistical Yearbook: On the Invisibility of Non-Designated Islands Authors: Takehiro Usui, Atsushi Ishida, Akemi Ori, and Yuko Matsumura Affiliation: Faculty of Economics, Soka University, Japan Email: usui [at] soka.ac.jp 離島統計年報の制度的限界と活用可能性–指定外離島の不 可視化をめぐって 碓井 健寛・石田 厚・織 朱實・松村 悠子 Abstract 離島統計年報の制度的限界と活用可能性–指定外離島の不可視化をめぐって 本稿は、『離島統計年報』の制度的構造と利用実態を検討し、法的指定を前提とする統計体系が生 む不可視化の問題を明らかにした。この統計は 1970 年代以降、人口・産業・交通・教育・医療等 を島別に収録してきたが、その母集団は離島振興法上の指定区域に限定され、指定解除後には時 系列が途絶する。この構造により、架橋・航路改廃・行政再編など政策イベント後の変化を継続的 に観測できない。文献レビューでは、『島嶼研究』掲載論文の九割以上が指定離島のみを対象とし、 制度外の地域が統計の収集対象から除外されるという二重の不可視化が確認された。前畑(2012) の質的調査と本谷・加藤(2024)の量的分析を接続し、制度的利便性の向上と生活上の脆弱化の乖 離を検証した結果、統計の持続性を制度から切り離す再設計の必要性を導いた。 Institutional Limits and Usability of the Remote Islands Statistical Yearbook: On the Invisibility of Non-Designated Islands This study examines the institutional structure and practical use of the Remote Islands Statistical Yearbook, clarifying how the legal framework of island designation generates statistical invisibility. Since the 1970s, this yearbook has provided cross-sectional data on population, industry, transport, education, and health for legally designated islands. However, once an island’s designation is cancelled, its time-series data are discontinued, preventing longitudinal observation of policy impacts such as bridge construction, route abolition, or administrative reorganization. A literature review of twenty-three major papers, mainly from the Journal of Island Studies, shows that over ninety percent focus solely on designated islands, reproducing the exclusion of non-designated ones. By linking qualitative insights from Maehata (2012) and quantitative findings from Motoya and Kato (2024), this paper reveals a divergence between institutional convenience and lived vulnerability. It argues for a redesign of the statistical system that decouples data continuity from administrative status, enabling the inclusion of post-de-designation islands in policy evaluation. 1 キーワード:離島振興法/離島統計年報/指定解除/不可視化/教育アクセス Iはじめに 1953 年に制定された離島振興法は、地理的隔絶に起因する生活条件の不利を是正することを目的 とし、交通・通信・電力などのインフラ整備、教育・医療・住宅などの生活基盤の充実、農林水産 業・観光などの産業振興を総合的に推進する政策枠組みである(離島振興法第 1条・第 2条)。この 制度設計は、のちに半島振興法や辺地対策事業といった周辺地域政策の参照軸となり、地域類型ごと の「政策対象の画定」と「予算配分の正当化」を支える行政モデルとして機能した。 『離島統計年報』(以下、年報)は、この法制度に基づく指定区域を母集団として、1960 年代後半 の基礎資料を踏まえ、1970 年代以降、島別の人口・産業・生活基盤・交通・教育・医療・財政等を横 断的に収録してきた(注 1)。長期連続かつ領域横断という特性は、個別島の履歴や政策イベントの 前後比較に適しているが、その収録範囲は離島振興法の指定区域に限定される。そのため、指定の新 規追加・区域変更・解除のたびに統計上の母集団が更新され、指定解除に至った島では翌年以降の 島別系列が途絶する。すなわち、統計の収集・編纂が法的制度区分に従属する構造となり、制度外の 島々では政策効果の検証や変化の観測が困難になる。 本稿の目的は四つある。いずれも、離島振興法という制度的枠組みに依存してきた統計体系を再検 討し、その制約を超える方向を探ることに向けられている。最終的な到達点は、統計の連続性を制度 から切り離し、すべての島を共通の観測単位として扱う「完全版構想」を提示することにある。第 1 に、『離島統計年報』の学術的・政策的利用の実態を整理し、統計資源としての潜在力と限界を明ら かにする。第 2に、離島振興法における「指定」や「解除」といった制度運用が、島別統計の時系列 比較にどのような影響を与えてきたかを再評価する。第 3に、架橋後の生活変化を質的に描いた前畑 (2012)と、教育アクセスを量的に分析した本谷・加藤(2024)の研究を参照し、年報が捉えきれな い生活上の変化を統計利用の射程にどう接続できるかを検討する。第 4に、こうした検討を踏まえ、 離島振興法の指定・解除という行政区分に依存せず、島の地理的実体を継続的に観測する統計体系― ―すなわち制度の内外を問わず、人口・交通・教育・医療・産業などの主要指標を共通のフォーマッ トで追える「完全版構想」――を提示する。これにより、架橋や行政再編の影響を含む島の変化を長 2 期的に把握し、制度の外に置かれてきた現実を政策評価の射程に取り戻すことを目指す。 II 離島振興法の指定・解除について 離島とは、本土や主要島から海で隔てられ、船舶や航空機を通じてのみ人や物資の移動が可能な 地域を指すが、制度上は「離島振興法に基づき指定された島」を意味する (注2)。ただし、沖縄・奄 美・小笠原の三地域については、復帰・返還の経緯に応じてそれぞれ独立した特別措置法(沖縄振 興特別措置法〔1972 年〕、奄美群島振興開発特別措置法〔1954 年〕、小笠原諸島振興開発特別措置法 〔1969 年〕)が制定され、離島振興法の枠外で同等の助成措置が講じられている。したがって、本稿 で扱う「指定」「解除」は、離島振興法の制度運用に基づく島々を主たる対象とする。 本節では、まず離島振興法における「指定/非指定(解除)」の運用史を俯瞰し、指定区域の変化 が『離島統計年報』における母集団――すなわち統計の観測単位としての「島」――にどのような影 響を及ぼしてきたかを明示する。離島とは、本土や主要島から海で隔てられ、船舶や航空機を通じて のみ人や物資の移動が可能な地域を指すが、制度上は「離島振興法に基づき指定された島」を意味す る。この指定が解除されると、その島は統計上も「離島」として扱われなくなる。 本節では、とくに三つの制度的変化に注目する。(a) 架橋や干拓によって島が本土や他島と物理的 に接続され、海上移動を要しなくなる「地続き化」、(b) 離島と本土・他島を結ぶ航路の改廃や統合 による交通ネットワークの再編、(c) 市町村合併など行政区域の再編による統計単位の変更、の三類 型である。これらの出来事が、島別に整備されてきた時系列統計の連続性をどのように断ち切ってき たのかを明らかにする。 1制定目的と制度設計の推移 離島振興法(昭和 28 年法律第 72 号,1953 年7月22 日公布・施行)は,戦後の地域格差是正政策 の一環として,「本土より隔絶せる離島」の後進性を除去することを目的に制定された。ここで言う 「後進性」とは,産業基盤・交通・教育・医療などの社会資本が本土に比して著しく遅れている状態 を指し,当時の復興・開発計画が掲げた均衡発展の理念と歩調を合わせるものである(離島振興三十 年史編纂委員会 1989, pp. 25-28)。旧法では,都道府県が離島振興計画(第 3条)を作成し,国がこ 3 れを統括して毎年度の事業計画(第 6条)を定めるという中央集権的運用が採用された(e-Gov 法令 検索 2025a)。 その後の改正を経て,2012 年改正(平成 24 年法律第 40 号)以降の現行法では,第 3条により主 務大臣が離島振興基本方針を定め,これに基づいて都道府県が第 4条の離島振興計画を策定する分 権的体制へ転換された。併せて,旧法第 6条に置かれていた「内閣総理大臣による毎年度の事業計 画」規定は廃止され,現行の第 6条は国の経費計上に関する条項へと改められている(e-Gov 法令検 索2025a;国土交通省 2016;国土交通省 2024)。 理念面では,三木(2021)が指摘するように,2002 年改正で目的条項から「隔絶」の語が削除さ れ,離島を「後進地域」とみなす開発主義的言語から,地域の自立的発展と多様性を尊重する文言へ と更新が図られた。すなわち,離島を「取り残された空間」として補填する発想から,固有の価値と 可能性をもつ生活圏として長期的に支える発想へと,制度言語の重心が移動したのである。 2『離島統計年報』と法的指定の連動 『離島統計年報』は、日本離島センターが編集・刊行する離島基礎統計で、人口・産業・交通・教 育・医療・財政等を島別に横断収録し、都道府県の計画作成を実務的に支えるデータ基盤である(日 本離島センター 2023;国土交通省 2017)。収録単位は原則として離島振興法における「法指定離島」 であり、指定の新規追加・区域変更・解除の都度、統計上の母集団が更新される。このため、指定解 除が生じると翌年度以降、その島の島別系列が途絶し、政策効果の事後検証が困難になる。 3指定解除の成立過程と基準化 (1) 運用の出発点(1966 年–)鈴木(2019, pp. 9-11)によれば、1960 年代後半以降、架橋や埋立に よって「常時陸上交通の確保が認められた場合」に指定解除とする運用が先行し、解除判断は個別審 議(離島振興対策審議会)に委ねられていた。干拓・埋立により「本土との最短距離が実質 0」とな る事例も、離島扱いから外す方向が共有されていた(離島振興三十年史編纂委員会 1989, pp. 42-49)。 4 (2) 基準の明確化(1978 年–)1978 年3月27 日の第 43 回離島振興対策審議会において、架橋等に より本土との常時陸上交通が確保される場合は、「隔絶性の解消」したものとして指定を解除するこ と、また要件該当年度の翌年度末まで解除を猶予し得ること、さらに未接続集落がある場合は部分的 に解除猶予し得ることが正式に決定された(国土交通省 2012)(注3)。事実上の運用(de facto)か ら制度的基準(de jure)への移行が整った。 (3) 基準適用と時間差の実例 広島県蒲刈群島では、安芸灘大橋の供用(2000 年1月18 日)後、上 蒲刈島・下蒲刈島が 2001 年4月1日付で解除された(国土交通省 2010)。また、豊島大橋の開通 (2008 年11 月18 日)を経て、豊島・大崎下島・岡村島は 2010 年3月26 日に解除告示(施行 4月 1日)がなされている。いずれも、物理的開通と法的解除の間に時間差があり、地域状況の点検と行 政手続きを経て政策判断が下されることがわかる。 (4) 解除基準をめぐる論点 1974 年の第 40 回審議会では「後進性が残る地域を解除すべきでない」 との問題提起がなされたが、最終的に「常時陸上交通の確保=隔絶性の解消」を解除原則として維持 する結論に至った(離島振興三十年史編纂委員会 1989, p. 43)。同委員会は、天草地域の後年の扱い 等を踏まえ、解除が当初目的(第 1条)を十分に達成しないまま行われた事例があるとの厳しい評 価も示している(同, p. 45)。すなわち、解除基準は交通条件に特化して明瞭である一方、生活条件・ 産業条件の遅れをどう評価に織り込むかは制度上の盲点として残存した。 4小結:指定・解除と統計母集団の断絶 以上より、離島振興法における指定・解除の運用は、交通条件の改善=隔絶性の解消を中核に制度 化され、解除の告示が行われると、年報の母集団から当該島が外れる。制度の外への移行が、そのま ま統計観測範囲の縮減=島別時系列の断絶として顕在化する。 一方で、制度は確かに生活基盤の改善や居住維持に一定の成果をもたらしてきた。須山(2015)は、 1980 年代以降の港湾・交通・ライフライン整備の進展により、無人化島の新規発生が著しく減少し たことを指摘しており、離島振興施策の実効性を裏づけている。こうした成果は、制度が「後進性の 除去」という初期目的を実質的に達成しつつあったことを示す。 5 しかしその成果の裏側で、制度に連動する統計設計が制度外の現実を不可視化する構造を内包す る。制度の成功と不可視化は同根であり、これが本稿が後続節で検討する「指定解除後の不可視領 域」の基礎である。 次節(文献レビュー)では、こうした制度構造が研究利用の偏りとしてどう再生産されているかを 検討する。 III 文献レビュー:離島統計の活用実態と不可視領域 本節では、年報の学術的引用・実務利用の傾向を、分野(地理学、地域政策、社会学、教育、交通 など)別に暫定的に整理する。ここではデータベースとしての年報が、(1) 島別比較のスクリーニン グ、(2) 事例選定の根拠資料、(3) 政策評価の補助統計、として用いられてきた一方、指定解除後の追 跡に弱いという共通の限界が報告されている点を指摘する。本節は予備的整理であり、網羅的なシス テマティックレビューは別稿に譲る。 離島振興法制定以降、『離島統計年報』は法指定離島を母集団とする唯一の全国統計として整備さ れてきた。しかし『離島統計年報』を利用した論文の大半が法指定離島のみを分析対象としており、 非指定島や解除島を扱う研究はきわめて少ない。 以下では、『島嶼研究』を中心とする代表的論文群を対象に、年報の活用形態と制度区分の扱いを 整理し、指定解除後の不可視化がどのように再生産されているかを明らかにする。Table 1は、『島嶼 研究』等に掲載された離島統計年報の実証的利用論文 16 本を抽出したものである。 1指定離島を母集団とする横断研究 離島統計を全国比較に用いた研究は多く、柿沼・岸良(2014)は 2011 年版年報を基に、305 島を 主成分分析とクラスタ分析で類型化した。分析は観光ポテンシャル、医療充足度、居住性を軸に島 の構造的差異を可視化し、人口 9000 人前後を医療体制の閾値と位置づけた。有村・功刀(2018)は 2012 年版年報の 249 島データを用い、観光客数と道路・便数・空港などの社会基盤指標との関係を 回帰分析により検証した。道路規格改良や航路便数が観光需要に有意な正の影響を持つことを示し、 物理的アクセスの整備を政策的焦点とした。小澤(2020)は離島農業に焦点を当て、e-Stat と2018 6 年版年報を併用し、農業生産額の地域特性を分析した。これらはいずれも「指定離島」を前提とし、 非指定や解除後を統計的に扱うことはない。 鳥居(2012)は漁業を題材に、2009 年版年報と国勢調査を併用して就業構造を比較し、高齢化・ 一次産業依存の構造的脆弱性を報告した。中嶋ほか(2018)は小規模離島の医療提供体制を対象と し、2014 年版年報の 302 島から母集団を確定したうえで質問票調査を行い、常勤医の偏在や巡回診 療の脆弱性を可視化した。これらはいずれも、年報を「調査対象の定義装置」として利用しており、 制度的な枠内での横断把握にとどまる。 2指定解除後の追跡と質的接続 離島振興法の制度的運用と並行して、架橋を契機とする地域変容を対象とした研究も蓄積されてい る。堀本(2011)は、既往研究を「利便性拡大と地域衰退の二面性」および「架橋済・未架橋の比較 可能性」という 2軸で整理し、未架橋島の住民意識に関する研究の空白を指摘した。たとえば、宮内 (2001)は、架橋が通勤・通学圏の拡大や人口流出抑制に寄与したと報告し、塩谷(2000)は、交通・ 生活圏の拡大が地域内部の就業機会や環境負荷に影響を及ぼしたと論じた。さらに、宮城(1979)お よび前畑(2005)は、教育・医療基盤の改善が進む一方で地域共同体の希薄化を指摘し、村上(2000) は、利便性向上が新たな社会問題を誘発した事例を示している。これらの研究は、制度上の「隔絶性 の解消」が必ずしも社会的な自立や地域の持続性を意味しないことを明らかにしており、本稿の分析 が扱う「指定解除後の不可視化」問題を理解する上で重要な文献的基盤となる。 年報の限界を越えて指定解除後の島を扱った希少な事例が、前畑(2005, 2010, 2012)である。浜 比嘉島・鷹島・古宇利島を対象に、架橋後の生活変容を聞き取りと統計の照合により描き、人口統計 と常住実態の乖離、公共交通消滅後の移動手段の個別化、高齢者の移動困難といった「生活空間の散 逸」を指摘した。統計上は交通利便性の改善として現れる現象が、社会的には分断や孤立を伴うとい う逆説を明らかにしている。これらの分析は、指定解除を境に統計系列が途絶することの実態的帰結 を示すものであり、年報の母集団定義そのものが不可視化を制度的に生むことを示唆する。 同様に、長嶋(2008)は災害・疎開の歴史事例を通じて、通信や教育統計の空白を補う形で非指定 島を扱い、制度外リスクの把握を試みた。西澤ほか(2000)は沖永良部島を対象に、農業センサス 7 と年報を統合して「自足型社会」の概念を提示し、公式統計に現れない家計内循環を質的情報で補っ た。こうした補完的研究は少数にとどまるが、制度外の実態を可視化する手がかりを提供している。 3横断比較と不可視化の構造 Table 1に示した主要先行研究の大半は離島振興法における法指定離島を対象としている。これら の研究は分野を問わず、(a) 指定離島中心の分析枠組み、(b) 現地調査や独自指標による補完、(c) 統 計に依存しない政策提言、という 3つの共通項を持つ。非指定・解除後の島が系統的に扱われること はなく、制度カテゴリーの外にある地域ほど、研究上も統計上も見えなくなる構造が再生産されてい る。この背景には、離島統計年報の設計が法的指定に連動しており、解除後の島を統計的に追跡でき ないという構造的制約がある。研究が同資料を一次データとして利用する限り、分析可能な母集団は 制度上の指定離島に限られ、結果として架橋離島への関心は相対的に薄くならざるをえない。この ような傾向は、本稿が確認し得た範囲の先行研究にも共通しており、制度外の地域を対象とした体 系的研究はきわめて少ない。とくに指定解除後の連続系列を扱う分析は前畑の一連の研究に限られ、 他の計量研究では母集団の更新による時系列断絶が黙認されている。 非指定島を扱った体系的研究は確認できない。指定解除後の連続系列を扱う研究は前畑に限られ、 他の計量研究では母集団の更新による時系列断絶を黙認している。制度に従属する統計設計が、政策 対象から外れた地域を統計的にも排除する――この二重の不可視化が確認される。 政策提言の傾向としては、医療・交通のネットワーク化、観光と自然公園の連携、農業の選択と集 中、漁業・物流コストの是正が挙げられるが、いずれも「制度内」での最適化に留まる。制度外の持 続性や生活リズムの変容を扱う研究はきわめて少ない。これがまさに、離島統計年報が「制度の成果 を測る装置」であるがゆえに生じる限界である。 4小結:制度と統計の隙間 以上の整理から、年報を用いた既存研究は二重の偏りをもつ。第 1に、離島振興法における制度的 指定を前提とする母集団選定。第 2に、定量的利便性の向上をもって政策効果とみなす前提である。 前畑や長嶋が提示した質的知見は、この前提の背後にある不可視領域――すなわち制度の外にある 8 改善や無人化抑止といった具体的成果によって裏づけられてきた。しかしその後、制度的成熟ととも に対象定義が狭まり、統計的観測の射程が縮減した点に問題が残る。指定解除や制度外化を通じて、 統計上の脱島化という新たな不可視領域が生じたことは、その制度的副作用といえる。制度の成熟が もたらした成功は、同時に統計の観測範囲を狭め、可視性の限界を制度内部に内包させた。 制度は政策資源の配分と説明責任の枠を与える一方、統計は現実の測定と比較の基盤を提供する。 本来両者は相互補完的であるべきだが、対象定義が一致しすぎると、制度から外れた瞬間に統計から も消える構造が生まれる。前畑が示した生活上の分断と新負担、そして本谷・加藤が示した教育アク セスと人口動態の結節は、制度と統計の切り離しが不可視化の解消に不可欠であることを示す具体 例である。観測の持続性を確保し、制度変更の影響を検証可能にすることが、離島政策の学術的基盤 を整える最短経路である。 本稿が明らかにしたように、『離島統計年報』の母集団は離島振興法の指定区域に従属し、架橋・ 干拓・行政再編による地続き化を契機に島別系列が途絶する。そのため、制度外に置かれた地域では 統計的継続観測が不可能となり、政策効果の検証も断絶する。この構造は、長嶋(2024)が瀬戸内の 事例から指摘したように、「人工島と架橋島を所管する準公的機関が無いため、統計の継続的収集と 発信にも支障が生じている」状況と軌を一にする。すなわち、制度的区分が統計の観測単位を決定 し、その外側にある現実を不可視化している点で共通する。 制度・統計・研究の三者は相互に参照しあう循環を形成しており、制度が対象を定義し、統計がそ れをデータ化し、研究がその枠組みを前提に分析を行う。この循環構造の中で、制度外に置かれた地 域は観測対象から外れやすくなる。すなわち、研究の分布そのものもまた、「制度と統計の重なりが もたらす不可視化」の一形態として理解できる。 VI 結論と展望 本稿は、(1) 離島振興法に基づく指定区域の変動が、島別時系列を制度的に断絶させてきた構造的 問題を指摘し、(2) 『離島統計年報』を活用した先行研究の射程と限界を整理し、(3) 制度と統計の切 り離しを前提とする代替的観測設計の必要性を示した。 文献レビューで明らかになったのは、統計の活用史そのものが不可視化の写像であるという点であ 15 る。年報は、制度指定を受けた島々では政策分析の基盤として機能してきたが、その外側にある架橋 島・指定解除島・小規模島は、統計の母集団から排除され続けてきた。この構造の下では、地域変動 の多様な帰結を十分に検証することができない。 第1の課題は、指定外離島を含む場合と含まない場合で、どのカテゴリーに統計的バイアスが生じ るのかを明確化することである。離島振興法に基づく指定区域を前提とした統計体系では、制度の 変更に伴って母集団が入れ替わるため、系列の継続性だけでなく、指標の意味そのものに歪みが生じ る。たとえば人口については、指定解除が主として橋梁開通や干拓による比較的大規模な島から順に 行われてきたため、解除後にそれらの島が母集団から除外されると、指定離島群の平均人口は相対 的に小さくなり、統計上は「離島の過疎化が進行した」ように見える。高校生の通学では、架橋や統 合によって制度上は「通学圏に組み込まれた」とみなされるが、依然として交通費や移動時間が高 水準のままであり、教育到達性の格差が統計から消える。産業の売上額では、架橋や観光地化を経て 指定解除された島が制度外化すると、比較的高い売上を示す上位群が統計から外れるため、残存す る指定離島群の平均売上は低下して見える。観光客数については、架橋離島で来訪者の多くが車両 通過や日帰り滞在となり、フェリー乗降統計に計上されなくなるため、実際には観光流入が増加して いるにもかかわらず、統計上は「急減」として処理される。このように、制度外化とは単なるサンプ ル消失ではなく、「指標の意味の変質」を伴う統計的バイアスの発生を意味する。例示した人口・教 育・産業・観光の各指標において、過疎化の誇張、教育格差の見落とし、経済停滞の錯覚、観光消滅 の誤読といった形で、制度依存の構造的偏りが生じている。したがって、不可視化を解く第 1歩は、 制度変更によるサンプリングバイアスを定量的に把握し、どの系列でどの程度の歪みが生じている かを可視化することである。 では統計的な歪みをどのように把握し、可視化するのか。その方法は以下の通りである。第 1に、 構成比の変化を比較する方法である。年度ごとに、指定離島群と指定解除離島群を並べて人口規模・ 産業構成・交通条件などの分布を比べ、制度変更によって母集団が入れ替わる際に平均値や比率がど の程度ずれるかを確認する。たとえば、解除直前の年について「解除予定の島を含む場合」と「含ま ない場合」で平均人口や観光客数を比較すれば、制度変更が統計の見かけの傾向をどの程度動かすの かを把握できる。これは、いわば「構成の変化(composition change)」を丁寧に追う方法である。 第2に、もし指定解除がなかった場合の数値を推定する反事実比較の方法である。解除された島が 16 そのまま統計に残っていたと仮定し、他の島々の傾向から推定した予測値と実際の値を比べること で、制度外化によってどのくらい値が変わったかを推定できる。これは、橋梁開通や干拓といった出 来事を外から加わった出来事(外生的ショック)としてとらえ、出来事の前後での変化を比較する考 え方に近い。数式を使わなくても、「もし解除がなければどんな傾向だったか」という想定を加える ことで、制度変更による歪みの大きさをわかりやすく示すことができる。第 3に、分布のかたちの変 化を見る方法である。指定群の人口や産業などの分布をグラフに描き、制度変更の前後でどの部分 が欠けたのかを視覚的に示す。たとえば、大きな島が制度から外れるとグラフの右側(人口の多い部 分)が切れてしまうように見える。こうした分布のずれを図として示せば、「どの層の島が統計から 抜け落ちたのか」を直感的に理解できる。 まとめると、これら 3つの方法はいずれも、制度変更によって統計の見え方がどのように歪むか を、数の変化やグラフのかたちとして具体的に示すものである。専門的な数式を用いなくても、母集 団の入れ替わりが平均値や傾向にどのような影響を与えるかを丁寧に追えば、不可視化は「測れない 問題」ではなく、「測り方の問題」として理解できる。 ただし、この歪みの存在を可視化すること自体が目的ではない。重要なのは、制度変更により統 計上から消える元・離島が存在することで、離島全体の特徴や変化の傾向を誤って推定してしまう 点にある。すなわち、可視化は最終目的ではなく、制度依存によって生じる統計的偏りがどのように 「離島の現実」を歪めているのかを明らかにするための中間的手段である。この検証を通じて、制度 的指定の有無にかかわらず地域変動を継続的に観測できる仕組み–すなわち、統計と制度を切り離し た独立的観測体系–の設計が次に求められる。 第2の課題は、指定・解除という制度運用の外側に生じている地域変動を、いかなる観測設計に よって捉えうるかを検討することである。これは、上記のバイアスを回避し、偏りなく離島全体の傾 向を把握するために、行政的な「離島指定区域」を超えた全数観測設計を導入することを意味する。 具体的には、架橋・干拓・行政統合などにより法的には「離島でなくなった」地域であっても、生活 条件やアクセス構造において依然として島的制約(islandness)を保持している場合が多い。このよ うな地域を観測対象から外すことは、医療研究において治療後の経過観察を打ち切ることに等しく、 変化の実態を過小評価することになる。したがって、制度外地域を含めた拡張的母集団を設定し、人 口・交通・教育・医療・産業などの基礎変数を連続的に追跡する設計が求められる。この設計は、離 17 島統計年報を制度の記録書から、地域変動を科学的に観測する装置へと転換する方向を示すもので ある。すなわち、離島の定義を行政単位から独立させ、「島であった地域」も含めた地理的・社会的 連続体として捉え直すことが、制度と統計の切り離しを実質化する条件となる。 この再設計を実施するにあたっては、年報の編纂主体である日本離島センターが、法的指定の有無 にかかわらず島別データを継続的に収録できる枠組みを整えることが不可欠である (注4)。同時に、 日本島嶼学会は、学術的知見の集約と政策提言を通じて、統計体系の拡張を社会的合意として形成す る役割を担うべきである。 荻野(2024)が天草における架橋後の経済構造を短期循環化として描き、長嶋(2024)が瀬戸内 の架橋島における人口安定効果を指摘したように、架橋の帰結は一様ではない。こうした多様な変化 を捉えるには、制度外の地域をも継続的に観測対象に含める設計が必要である。これらの再設計が進 めば、『離島統計年報』は制度の記録書から、地域変動を社会科学的に検証する観測装置へと転換し うる。 謝辞:本稿は、2025 年次日本島嶼学会 羽幌天売島大会(2025 年8月31 日・羽幌町立中央公民館)に おける「離島統計年報の構築と活用に関する一考察 –『島嶼データベース』としての再評価に向け て–」の発表をもとに執筆した。セッションでは多くの質問やコメントをいただき、ここに感謝の意 を表する。本研究は、科学研究費助成事業・基盤研究(C)(課題番号: 24K05615)および挑戦的研 究(萌芽)(課題番号: 25K21918)の助成を受けて実施されたものである。 注 1)年報の編纂過程と収録項目の変遷は、当該年度版の「凡例」および巻頭解説に基づく。 2)離島振興法(昭和 28 年法律第 72 号)は、全国の離島のうち一定の生活不利地域を指定し、公 共事業費の補助率引上げや生活基盤整備の推進を目的として制定された。これとは別に、地域の特 殊事情に対応する個別立法として、a)奄美群島振興開発特別措置法(昭和 29 年法律第 189 号)、b) 小笠原諸島振興開発特別措置法(昭和 44 年法律第 79 号)、c)沖縄振興特別措置法(平成 14 年法律 第14 号)が施行されている。前二者は国土交通省、沖縄は内閣府が所管し、離島振興法と並行して 18 運用されている。これら三法の対象地域は、法的には離島振興法の「指定離島」に含まれないが、地 理的条件不利の是正という制度趣旨と主要施策は共通し、財政支援および社会基盤整備の枠組みも 類似している。 なお、指定離島の一覧および指定状況は、国土交通省「離島振興」政策ページ掲載『離島振興対策 実施地域一覧(令和 7年4月1日現在)』PDF を参照。https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/ chirit/content/001886615.pdf?utm_source=chatgpt.com なお、当該ページは「離島振興法(昭和 28 年法律第 72 号)に基づき地域指定された市町村・旧 市町村の区域」に関するデータを含んでおり、指定・解除・区域変更等の履歴については必ずしも一 元的に整理されていない点に留意。 3)『離島振興三十年史 上巻–離島振興のあゆみ–』(1989)では、審議会回次や告示年月日について 概略的に叙述されているが、国土庁審議会資料および官報告示によると、第 31 回(1966 年12 月12 日)・第 34 回(1968 年9月20 日)・第 43 回(1978 年3月27 日)の各審議会で基準が正式に確定し ている。本文ではそれに基づき補正した。 4) 『離島統計年報』は、公益財団法人日本離島センターが毎年度編纂・刊行している(例:日本 離島センター編 2023『離島統計年報 2023』日本離島センター)。 References [1] 浅川雅美・岡野雅雄 2009. 離島の観光パンフレットに対する反応の分析 –与那国島の場合–. 島 嶼研究 9: 23-31. https://doi.org/10.5995/jis.2009.9_23 [2] 有村俊秀・功刀祐之 2018. 観光客数と社会基盤の関係について–離島データを用いた分析–. 自動 車交通研究 2018: 30-31. https://doi.org/10.20717/jrctptpj.2018.0_30 [3] 石原俊 2011. 〈島〉をめぐる方法の苦闘―同時代史とわたりあう宮本常一.現代思想 39(15): 134-157. 青土社. 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